創刊30年記念企画シティライフアーカイブズ【北摂の歴史記録】第28回北大阪のまつり


アーカイブス

年頭の行事 神饌

現在、そして未来にもつながる過去の情報を取材、編集し、記録する特集です。北摂の歴史から、私たちの住むまちの魅力を学び知る機会になればと思います。 第28回は「北大阪のまつり」について紹介します。

歴史案内人

取材協力 吹田市立博物館
副館長 藤井裕之さん


大阪のまつりを20年追い続けている。他にも吹田市を中心とした貴重な資料の作成に従事されている。


 

北大阪のまつりは多様性に富んでおり、大都市大阪の近郊でありながら、よくぞここまで伝統を維持されたといえます。このまつりの心を後世に伝えてほしい、そういう願 いも込められ、昨年秋に吹田市立博物館で特別展「北大阪のまつりーまもりつたえる心ー」が行われました。今回は同館の協力のもとその一部となる年頭の行事を紹介します。

年頭の行事


「神峯山寺・本山寺の勧請掛け」

 勧請掛けは正月に集落の出入口に大きなしめ縄を道や川を遮るよう掛け渡し、災厄悪霊の侵入を阻止する行事である。高槻市原の山間部にある天台宗の寺、神峯山寺の勧請掛けは、この集落の修験道に関わる者で行われる。毎年12月20日頃掛け替えを行い、正月初寅の日に堂島の米商人たちが樒の垂れ具合で米の相場を占う年占に用いた。

神峯山寺の勧請掛け(写真提供:神峯山寺)シキミの束を12か所、縄で結び付ける。




 

「キツネガエリ能勢町天王」

 キツネガエリはキツネガリとも言い、小正月に災厄をもたらすキツネを追い出す行事で、大阪では能勢町天王のみ行われている。1月14日午後、子どもたちが竹の先 端につけた藁のキツネと御幣、太鼓を持ち家々をまわり、祝儀をもらう。ここではキツネは追われるものではなく福を与え、家々の厄災を引き受けて川からあの世へ持ち去っている。



キツネガエリの唄「ワレは何をするぞいやい。キツネガエリをするぞいやい。(後略)」。



小谷橋から藁のキツネと御幣を川へ投げるとキツネが災厄を持ち帰ってくれる。




 

「上新田天神社とんど祭り」

 大阪でも盛んに行われ、豊作や無病息災などを祈願する「とんど」は、その多くがなくなったり簡略化されている。上新田天神社のとんどは古い形式が残され、毎年1月14日夜に行われている。火が真上に上がるとその年は豊作の年になり、書初めの書を燃やして高く上がると 上達すると言われている。この火を各々持ち帰り、小豆粥を炊いて食すと一年間無病息災で過ごせると伝えられている。豊中市無形民俗文化財。

この火で焼いた餅を食べると病気をしないと言われている。



書の上達を願って書初めを燃やす。




 

「瀧安寺の富法会」

 江戸時代、瀧安寺では正月の修正会満座日である1月7日に宝くじの起源と言われる富くじ(箕面富)が行われ、参拝客で大変にぎわった。その起源は鎌倉時代までさかのぼるとも言われるが、確実な史料では天正3年(1575年)に行われた記録がある。名前を書いた富札を富箱という木箱に入れ、寺僧が箱の上部から長柄の錐で札を突き、それを当たりと定め、午王宝印を押した富守を箱に入れ竹竿で挟んで授けた。授かった者は富が逃げないよう、夜通しかけて家へと持って帰った。この富くじは2010年に復活し、毎年
10月10日に行われている。

瀧安寺 富籤箱
(箕面市郷土資料館蔵) 
大阪府有形民俗文化財



「正月七日 箕面富」(『摂津名所図会』)錐で木箱の中の札を突く



 

「八阪神社の蛇祭り」

 高槻市原の八阪神社で行われる春季歩射神事は蛇祭りとも言われ、4月第1日曜日に行われる。大綱の奉納、歩射、盃事で構成、神社近くの池に住む大蛇を退治したことに由来し、大綱を大蛇に見立てている。近くにある神峯山寺はかつて八阪神社の神宮寺で、
勧請掛けと大綱との関係がうかがえる。高槻市無形民俗文化財。


 

神饌(しんせん)

 神饌とは、祭りにおいて神に供えるものである。北大阪地域ではもち米を蒸した白むしが代表的な神饌で、伝統的な神饌を守り続けている祭りが現在でも残っている。


 

「茨木市のオトウ」


茨木市生保 諏訪神社の春祭り

2月11日に行われる。神饌はオタイショウ1個、ケンゾク9個、カラス2個、他にみかん、酒なども用意。カラスは本殿の貫下に供えられ、カラス勧請の伝承と考えられる。

宝珠型の大きな白蒸しのオタイショウ



 

茨木市車作 皇大神宮

かつて旧暦1月9日で現在2月11日に行われる。神饌は三角の木枠で固めた白むし2個と大根、めざしなどを半紙で包んだものと鏡餅。

本殿に供えられた神饌。地区内の8班によって毎年交代で用意される。



 

茨木市大岩 大歳神宮

旧正月1日に行われる。神饌はビワの葉で包み紅白の水引を結んだ白むし、鏡餅、洗米をつぶしたしとみなど。

神饌のビワの葉で包まれた白むし



 

道祖神社のサイノトウ

12月10日に行われる。神饌は1升の白むしを丸めた日輪、もち米1升を蒸して平たく丸く盛った月輪、お馬の豆、焼き鯛など。

月輪



日輪



 

高槻市安満 磐手杜神社

かつては神事などを行う者の家に神を迎えるため、松、わら縄、竹、芝生、土を使って設けられたオダンに白むしと赤飯(モッソウ)が供えられた。

馬祭りのオダンに供えられたモッゾ
(写真提供:高槻市しろあと歴史館)



木の台に割竹を立て、中に半紙と真菰で包んだ白むしを入れ、上部に笊に盛った白むしを置き、かわらけで蓋をする。



 

吹田市岸部 吉志部神社のどんじ祭り

10月17日に行われ、小路、南、東の地区が神饌を奉納する。主食が白むし、副食が小判餅、茄子などを串に刺す菓子である。吹田市無形民俗文化財。

小判餅
小判餅は花餅を2つ配し、花びらを表す。



菓子



 

神饌と頭上運搬

かつて神饌を奉納する際、少女や女性が頭上運搬した例は多い。どんじ祭りでは、最も重要な役割を担う稚児が神饌を運搬したとされ、頭にかぶるサンドラはその名残とされる。島本・諏訪神社で行われるオトウの神饌頂や高槻・磐手杜神社で行われる馬祭りのゾウニモチでも、頭に神饌をかざす所作が見られる。

か梅花模様の着物にしめ縄の帯を締め、頭にサンドラをつけ、尾のついた特殊な草履を履く。



馬祭りのゾウニモチは御旅所詣りの儀で神饌をいただき奉納する



オトウの神饌頂は、神饌を頭にいただき神社にまいった。



 

取材を終えて

昨年秋に吹田市立博物館で特別展「北大阪のまつり -まもりつたえる心-」が行われていました。北摂地域に残る、年頭、農耕、愛宕火、献灯の行事、六斉念仏、獅子舞、献納行事などについて、指定民俗文化財を中心に紹介されており、その細部にわたる資料の数々に圧倒されました。この「北大阪のまつり」を一冊にまとめられ販売されています。詳しくは吹田市立博物館のホームページをご覧ください。

編集部 尾浴芳久




この記事を書いた人:

シティライフ編集部
北摂・阪神の地域情報紙『シティライフ』の編集部です。 市民記者の皆様と一緒に、地域密着の情報をお届けします。

HP: http://news.archive.citylife-new.com/


http://news.archive.citylife-new.com/archive/61755.html