【北摂パブリック紀行 Vol.20】料理をつくりながらワチャワチャの“もぐもぐ集会”


市民がつくった“みんなが集まれる素敵な場所”を訪ね、人とともに紹介する北摂パブリック紀行。今月は、元引きこもりの当事者が料理をつくりながらワチャワチャ交流する「もぐもぐ集会」です。

■「もぐもぐ集会」に行ってみた

4月の日曜日、千里中央のコラボ(豊中市千里文化センター)の「もぐもぐ集会」に出かけました。「もぐもぐ集会」ってなに?と興味があったのです。

コラボ3階の料理室に行くと、ドアに「NPO法人ウィークタイ・豊中市協働事業 『もぐもぐ集会』」と小さな看板が出ています。「指導:元引きこもり当事者団体 NPO法人ウィークタイ」とも書かれています。事前にアポを取っていたものの、大丈夫かな?若いみなさんの迷惑にならないかな?という一抹の不安がありました。

「もぐもぐ集会」の案内

 

中に入ると、20~30代と思われる若者が20余名集まっていました。そして、彼らのお父さんより年をとったおじ(い?)さんも、なんとか仲間に入れてもらえました。

まずメニューと材料をみんなで話し合います。出た意見をウィークタイ代表の泉翔(いずみ しょう)さんがホワイトボードに書いていきます。この日は、鶏の唐揚げ・鶏の天ぷら・鶏の竜田揚げの“鶏シリーズ”に決定です。

メニューと材料をホワイトボードに書いていく

 

そのあとみんなで近くのスーパーに買物に出かけます。帰ってきてから、3つの班に分かれて調理がスタート。

鶏肉を切ります

 

家でみんな料理をしているのでしょうか。いまどきの若い人にしては、なかなか手つきがいい。

3つの班に分かれて鶏肉を揚げていきます

だんだん出来上がっていきます

 

約1時間半で鶏料理が完成です。大きなテーブルに、唐揚げ、天ぷら、竜田揚げの大皿がデンと並びます。これを取り囲んで、みんなで「いただきまーす」。

てんこ盛りされた鶏料理

 

こんなにたくさんつくって大丈夫かな?と思いましたが、そこは若い人たちのこと。みるみるうちに鶏の山が崩れていって、ついに完食でした。

デザートをいただいたあと、名前(ニックネームもOK)、住んでいるところ、最近の身近なできごとを話せる範囲で順に紹介していきます。若者たちはごくフツーに見えますが、大半の人が引きこもりの経験をもっています。みなさん千里周辺から?と思っていたら、近江八幡市、生駒市、西宮市、東大阪市など、遠方から来た人が半数以上を占めていたのは意外でした。こういう場所が近くにないから、遠くからでもやってくるのでしょうか。

午後8時、みんなで後片づけ。そのあと解散ですが、コラボの外に出てもなかなか別れようとしません。最後に別れをおしみながら、それぞれ帰路につきました。

 

■「もぐもぐ集会」にもう一度行ってみた

約1ヶ月後の5月初旬の日曜日、「もぐもぐ集会」をもっと知ろうと、もう一度でかけました。この日は、私が西脇市で借りている竹林で採れたタケノコを数本持参しました。

この日も同じように何をつくるかを話し合って、ホワイトボードに書いていきます。タケノコの差し入れがあったことで、メニューはタケノコごはん・タケノコハンバーグ・タケノコのスパゲッティの“タケノコシリーズ”に決定です。前回と同じようにみんなで手分けしてつくったあと、輪になっていただきます。

タケノコをのせたハンバーグ

タケノコ料理ができあがり

 

そのあと、前回と同じように順に近況報告。「自分は料理に興味があり、少しはできるので、海外に出かけていって、寿司もラーメンもあるような日本料理店を開きたい。そのために、日本料理を幅広く学べる店でしばらく修業したい。少し遠回りしたかもしれないけど、自分なりの道が開けてきたと感じている。」とのH君の話が印象的でした。

 

■泉翔さんについて

「元引きこもり当事者団体」と表明して、生きづらさを感じている若者のサポートをしている「NPO法人ウィークタイ」代表の泉翔さんってどんな人?と思って、日を改めて話を伺いました。

吹田市で育った泉さんは、中学3年間は不登校、高校は通信制。通信制高校のサポート校であったY予備校で知り合った友達とは仲良く過ごせたそうです。その理由は、「何をしても認めてくれる多様性があったから」と泉さんは言います。

地元のK大学に進学するとしんどくなり、北海道の富良野に出かけて、農作業ヘルパーに1年間従事しました。元気になって帰阪しましたが、大学にはやはり居場所がなく、2年間休学します。その間、祖父が経営する会社の社宅の一室を借りて、大学生やフリーターなど元の友人とルームシェアするうちに元気になり、外に出られるようになったそうです。「年越し派遣村」で有名な湯浅誠氏の講演会に行ったことがきっかけで、おもろい社会をカタチにする大阪のプロジェクト「AIBO(Action Incubation Box in Osaka)」に参加。そのことがきっかけで、髭を剃るようになったなど、毎日の生活が大きく変わったと言います。

ルームシェア時代の友人が散り散りになっていたので、もう一度みんなが集まれる場所をつくりたいと、2014年6月に「特定非営利活動法人ウィークタイ」を立ち上げました。以前からやっていた「だらだら集会」(いつ来ていつ帰っても良い、食事なしの集まり)を再開しようと新しい会場をさがしたところ、豊中市の庄内公民館も使えることが分かり、2015年4月に第1回を試験的に開催しました。この不思議な集まりに興味を持った田中直之館長が2回目に訪問。挨拶を交わすだけでなく、名刺を渡して、豊中市の南部地域のことや地域の将来(南部コラボ構想など)について話してくれました。

これまでの会場では職員と会話することは少なく、「参加人数も参加者の住んでいる地域も定まらない”元引きこもり者”の集まり」は、不審者扱いから始まるのが普通で、気を悪くすることはあっても良い思いをすることはなかった。田中館長の応対は意外というか、ほんのりあったかい気持ちになり、ここで開催していこうと決めたそうです。

その後、田中館長から「一緒に何かしない」と声をかけられ、やりたいと思っていた「もぐもぐ集会」(一緒に食事を作って食べる集まり)を2015年12月に始めました。田中館長が2016年4月に千里文化センター(コラボ)の千里地域連携センター長として異動した後は、会場を千里に移して開催しています。

引きこもりから脱出できても生きづらさをもつ人は多い。孤独や不安に襲われる土曜日・日曜日にワチャワチャ(泉さんの表現)過ごせば、月曜日にまた仕事に行ける。もぐもぐ集会は、そんな思いから始まったようです。「Peer(経験者)だからこそ共感者・支援者になれる。生きづらさを感じている人がほっとできる居場所が毎日・どこかにあれば、生きづらい人が救われる。そのためにも、居場所づくりの担い手がもっとほしい。そのために“もぐもぐ集会”をこれからも続けていきたい。」と泉さんは笑顔で話してくれました。

泉翔さん

 

一つ一つ言葉を選びながら、静かに、ていねいに話をしてくれる泉翔さん。これまでいろいろなことがあったからこそ今の自分がある。自分はこの道を進みますと、確信に満ちているように見えました。そして、私が20代、30代の若い頃にも苦しい時期があったことを思いだし、思わず心の中で”がんばれー”と叫ばずにはいられませんでした。

※「特定非営利活動法人ウィークタイ」を詳しく知りたい方は、こちらをどうぞ。

※「ウィークタイ」は、米国の社会学者マーク・S・グラノヴェター(Mark S. Granovetter)が論文『strength of weak ties』(1973年)で示した、「価値ある情報の伝達やイノベーションの伝播においては、家族や親友、同じ職場の仲間のような強いネットワーク(強い紐帯)よりも、ちょっとした知り合いや知人の知人のような弱いネットワーク(弱い紐帯)が重要である」という社会ネットワーク理論として知られています。泉さんは、この考えに共感して団体の名前にしました。


この記事を書いた人:

山本 茂
北摂を中心に地域計画・まちづくりの仕事を長く続けました。現在は、千里ニュータウンと周辺をもっと魅力的にしたいと、仲間といろいろな活動をしています。まちづくりの第一歩は、市民や企業が地域の魅力を再発見しながら、できることから。「北摂パブリック紀行」は、市民や企業がつくった”みんなが集まれる素敵な場所“を発掘し、人とともに紹介しようとスタートしました。趣味は山と料理。オレンジ色のハスラーに乗って全国の山へ出かけます。
http://news.archive.citylife-new.com/column/53635.html