
素敵なまちには、市民や企業が育てた素敵な場所がある。そんな北摂の“市民・企業発のパブリックな場”を訪ねてお茶の間に届けるまちづくりシリーズの第3回。
(シティライフ2016年1月号の掲載記事のノーカット版)
■千里キャンドルロード2015
2015年11月7日(土)、千里ニュータウンの千里中央公園(豊中市)は約9万個のキャンドルで明々と照らされ、1万人以上の来場者が光のページェントを楽しみました。ここ数年、千里ニュータウンのまつりとして定着してきた「千里キャンドルロード」です。
緑 に囲まれた千里キャンドルロード(2015年 千里中央公園) Photo:幡知也
キャンドルロードの設営準備は、本番の前日から始まります。11月6日(金)の朝10時、この日都合のつくメンバーが集まります。まず会場の落ち葉や枯れ枝の清掃。そしてトラックで運ばれてきた土、9万個の紙コップを下ろします。そのあと、テント・机・椅子の運搬、看板類の設置、配置図を見ながらの白線引き、土の配布などが夕方まで進められます。この日は、男も女もみんな汗をかき、服を汚してのハードワークです。
前日の準備作業

縄を使って形をつくったあと白線引き
千里キャンドルロードの当日を迎えました。朝7時、約50人のスタッフによる落葉の清掃からスタート。9時頃から、千里ニュータウンの住民、大学、企業など、子ども~高齢者のボランティアが集まり始め、紙コップに土とロウソクを入れて並べます。今年のテーマ“愛”にちなんだ大きなハート、いろいろな動物の形ができあがっていきます。
紙コップでいろいろな形ができあがっていく
午後3時頃からは、ボランティアたちが続々と集まりはじめます。着火のために集まった人たちで、その数は約1300人にふくれました。まだまだ明るい午後4時、体育館横のステージで着火式が始まります。司会者の指示のもと、各階段の端から順に、ロウソクの火が横へ横へと広がっていきます。
ロウソクの火を隣の人につないでいく photo:幡知也
着火式のあと、約1300人のボランティアは、思い思いの場所に散らばり、家族で、カップルで、友達どうしで火をつけていきます。
それぞれの人がそれぞれの場所で着火
ステージでは、地域の子どもやグループによるダンスや歌が続きます。
歌とダンスのステージ
夕方5時を回ると日が暮れはじめ、並べられた約9万個のキャンドルが暗闇に浮かび上がり、来場者から“きれい”、”すごい”の声があがります。
テーマの「愛」にちなんだ赤いハート photo:北村由香里
「とよなか市民環境会議アジェンダ21」による竹を用いた灯りのコーナーもあります。
竹あかりのコーナー
「わたしのかいたかみコップ、あるかな?」子どもたちは、お父さん・お母さん、おじいちゃん・おばあちゃんと一緒にやってきて、自分が描いた紙コップをさがします。
「わたしのかいたコップある?」 photo:幡知也
2015年のキャンドルロードは、千里中央地区にあある「セルシー広場」を起点に、千里中央公園に続く「こぼれび通り」、そしてメインの「千里中央公園」を会場に開催されました。
セルシーの階段を用いたキャンドル
こぼれび通りは、地元の新千里東町のみなさんがデザインして並べました。
こぼれび通りのアジサイのキャンドル
夜8時、惜しまれながらキャンドルが消されます。約50名のスタッフは、キャンドル、紙コップを回収し、机・椅子・テントを片づけます。終わったのは夜10時。恒例の記念撮影・・・みんないい顔をしています。千里キャンドルロードがキャンドルに火を灯して楽しむだけでなく、千里の未来に続く道をつくっていると思っているからでしょうか?
片づけを終えて笑顔の記念撮影
片づけは、翌朝も行われます。前夜見落としたコップやロウソクの回収、路面についた鑞のかきとりなどが必要だからです。昼過ぎ、すべての作業が終わり、千里中央公園は前夜に何もなかったかのように、静かな公園に戻りました。3日間、お疲れさまでした。ちなみに、千里キャンドルロードが開催されたこの4年間、当日は雨・風のない絶好のキャンドル日和ですが、片づけの翌日は必ず雨が降るとのこと。

おつかれさま、また来年!
■千里キャンドルロードの準備千里キャンドルロードは、ほぼ1年をかけた準備を経て開催されます。キャンドルロードが開催された11月末の反省会のあと、年が明けてからテーマ・役割・予算などを検討します。

キャンドルロードの打ち合わせ
夏からは、幼稚園・保育園、小学校、地域の夏祭りを回って、子どもたちに紙コップに絵やメッセージを書いてもらいます。子どもたちは、自分が描いた絵を見ようと、家族と一緒にキャンドルの会場にやってくるのです。
夏まつりで子どもたちのお絵かき photo:山本晶
その後、市民のワンコイン募金、事業所を回っての寄付集め、秋口からはポスターやフライヤーの作成、キャンドルの配置などの会場デザイン、材料の調達とだんだん忙しくなります。
千里キャンドルロード2015 ポスター
主催団体である「千里キャンドルロードプロジェクト」のメンバーは、現在約50名。年齢は20~80代と幅広く、人数も年々増えているとのこと。吹田市・豊中市の職員が個人参加しているのも特徴です。■千里キャンドルロードのはじまり
千里キャンドルロードがスタートしたのは、2012年の秋です。この年、千里ニュータウンはまちびらき50年を迎えました。この節目をみんなで祝い、未来につないでいく記念事業を市民で開催しようと、「千里ニュータウンまちびらき50年事業」の実行委員会が設けられ、「タイムスリップ展」「千里をまるごと楽しもう」「千里50年まつり」「明日へ続く市民まちづくりフォーラム」などの多彩な事業が3ヶ月近くにわたって開催されました。
「千里キャンドルロード」も、“みんなで楽しめる千里らしいまつりを開催して、まちびらき50年を祝おう!そして、千里の未来につなげていこう!”との思いを込めて、2012年11月10日、千里南公園(吹田市)で開催されました。参加者は1万人以上、ボランティアは約800人。広い公園を使った千里らしい光のイベントが多くの人に感動を与えました。そして、このまつりを続けていこうとの声が高まり、その後も会場を千里中央公園、千里南公園と交互に変えながら開催されてきました。

第1回千里キャンドルロード(2012年 千里南公園)
■MOMO CANDLE NIGHT プロジェクト千里キャンドルロードには、実はもう一つの歴史がありました。豊中市上新田で設計事務所を主宰し、「千里キャンドルロードプロジェクト」の代表を2年間務めた北村拓さんは、2008年当時、自宅から桃山台駅までバスで通っていました。クリスマスイブの夜、暗い桃山台駅前から家路に急ぐお父さんたちを見て、桃山台駅前を一晩でいいから明るくしたい、お父さんたちに笑顔になってもらいたいと考えたそうです。そして、同業の仲間13人に呼びかけ、吹田市・吹田市教育委員会の後援も取りつけ、2009年のクリスマスの2日間、約2,000個のキャンドルを並べて楽しんでもらったそうです。このときのキャンドルはガラスコップに入れ、一部は幼稚園の子どもたちに絵を描いてもらった画用紙を巻いて照らしたとのこと。2日間の入場者は約2,000人。MOMO CANDLE NIGHTと名づけられたこのイベントは、14,000個のキャンドルを灯した2013年まで5年間続けられました。

MOMO CANDLE NIGHT(2012年 北大阪急行桃山台駅前)
「千里ニュータウンまちびらき50年事業」の内容が検討されていた2012年、このMOMO CANDLE NIGHTのことを知った実行委員会のメンバーがMOMO CANDLEのメンバーに参加協力を依頼し、千里南公園での千里キャンドルロードの開催が実現したのです。千里キャンドルロードのキャンドルの数は、千里ニュータウンの人口とほぼ同じの9万個。ガラスコップやペットボトルでは間に合わないことから、新しい方法を検討した結果、価格も比較的安く、調達しやすい紙コップを用い、風で倒れないように土を入れる方法が考案されたのです。■千里キャンドルロードのこれから
千里キャンドルロードは、この4年間で千里を代表するまつりになったことは、多くの人が認めるところでしょう。この千里キャンドルロードを、主催者側のみなさんはどう思い、どのような展望を描いているのでしょう。代表の北村拓さんに聞きました。
千里キャンドルロードは、千里ニュータウンにたくさんある公園を利用して、みんなが楽しめる、千里らしいイベントやと思いますね。「キャンドルロード、知ってますよ」「素晴らしいことやってますね」とか言われると、本当に嬉しい。
いろいろな人が、いろいろな形で参加できるのもいい。学校や夏まつりを回ってのお絵かき、地域や企業を回っての寄付のお願い、ポスターやパンフレットのデザイン、会場のデザイン、キャンドルロードの準備や片づけとか・・。子どもたちの中には、お絵かきだけでなく、紙コップを並べに来てくれる子もいます。企業の中には、寄付だけでなく、当日に人を出してくれるところもあります。「地域のために何かしたいという、みんなの中にある気持ちを引き出したイベント」かもしれません。
千里キャンドルロードプロジェクトのメンバーが素晴らしい。それぞれが楽しみながら、一生懸命頑張る。20~30代の若い人は、40~50代の自分たちを先輩と思って協力してくれるし、60代以上の人たちも裏方に回って自分たちを立ててくれる。特に、「千里ニュータウンまちびらき50年事業」や「第1回千里キャンドルロード」をリードし、翌年の第2回が開催できるように主催団体になってくれた「千里市民フォーラム」のみなさんに感謝したい。
4年間やってきて、ノウハウが蓄積されました。メンバーも増えています。お金も、市民や企業のみなさんからの寄付で何とか回っています。ただ、ひとつ少し心配なことがあります。1万人以上が集まって楽しむ千里キャンドルロードは、公益的な性格を持っているからこそ、営利的な事業に利用されやすい。このことに十分留意しながら、みんなで力を合わせてやっていきたいと思っています。
こんなコメントが返ってきました。

千里キャンドルロードプロジェクト代表 北村拓さん
千里ニュータウンは、人口の減少と高齢化が進み、「オールドタウン」と揶揄されました。しかし、建て替えを含むこの約10年の再生事業や市民の活発な活動によって、今では大阪を代表する魅力ある住宅都市に生まれ変わりました。千里キャンドルロードは、その象徴のようにも見えます。千里の人々が一年に一回公園に集まって、9万個のキャンドルを眺めながら、自分たちのまち千里ニュータウンを思い、ふるさとづくりを子ども達につないでいく場・・・そんな千里キャンドルロードがこれからも続いていくことを祈ります。「千里キャンドルロード2016」は、今年11月に開催の予定です。