
素敵なまちには、市民や企業が育てた、みんなが集まって楽しめる素敵な場所がある。そんな北摂の“パブリックな場”を訪ねてお茶の間に届けるまちづくりシリーズの第2回。
(シティライフ2015年12月号の掲載記事のノーカット版)
「『のせでんアートライン妙見の森2015』がおもしろいよ」、知り合いからそう聞かされて、10月下旬に能勢電鉄沿線の芸術祭「のせでんアートライン妙見の森2015」に出かけた。川西能勢口から能勢電鉄に乗ろうかと考えたけど、千里からは遠まわりなので、ときわ台駅まで車で行き、終点の妙見口駅まで電車に乗ることにした。電車には、明らかに「のせでんアートライン妙見の森」をめざしていると分かる、パンフレットを持った若いカップルや友達づれが数組いた。
能勢電鉄に乗って妙見口駅へ
終点の妙見口駅で下車、改札口を出ると「のせでんアートライン妙見の森」を案内する女性のボランティア(アートクルー)が笑顔で迎えてくださった。パンフレットをいただいて、妙見山をめざして花折街道(妙見街道)を歩きます。
妙見口駅前の案内コーナー
街道沿いには、いろいろな衣装をまとった案山子(かかし)が迎えてくれます。案山子たちは、地域の小・中・高校生や市民、企業のみなさんがそれぞれ制作した協働プロジェクトとのこと。地域で盛り上げている芸術祭だと分かる。
吉川自治会館前の案山子(地域協働プロジェクト)
体育館に横たわる巨大なこけし(アーティスト:Yotta)
魚のオブジェ(アーティスト:淀川テクニック)
コスモスを眺めながら妙見山山頂へ
地域の人たちと制作した書の作品(アーティスト:俵越山)
旧茶室の中で光と音を体験(アーティスト:梅田哲也)
吉川八幡神社
吉川地区の田園風景
「のせでんアートライン妙見の森」はどういう目的で始まり、地域や人々がどのような関わったのだろう? それを知りたくて、平野駅近くにある能勢電鉄本社を夕刻に訪ねた。突然の訪問にもかかわらず、鉄道営業課の辻田課長と余野主任がていねいに応対してくださった。
能勢電鉄本社
※1:能勢電鉄沿線各所や里山風景が残る自然豊かな「妙見の森」一帯の地域において、自然・歴史・文化と調和する「物」「音」「光」などによるアートを点在させ、ハイキングや街歩き気分で沿線とアート作品を気軽にお楽しみいただくアートイベント(ホームページより)
※2:「のせでん沿線でとれる食材を使った料理コンテスト」の審査を通った料理自慢が集い、のせでん沿線でおいしいレシピを決定するイベント(ホームページより)
※3:大正時代の深緑色の復刻列車を走らせ、大正時代の服装で乗車してもらい、当時の雰囲気を再現して楽しむイベント
能勢電鉄沿線は、昭和40年代に住宅地開発が進んだが、半世紀が経過して住民の高齢化や住宅の空家化が進み、沿線一帯の活性化を模索していた。近年、「越後妻有(えちごつまり)アートトリエンナーレ」「瀬戸内国際芸術祭」、近くでは「西宮船坂ビエンナーレ」など、アートを通じた地域活性化に成果を収めている例がある。総合プロデューサーとして参加された三好庸隆氏(武庫川女子大学教授)のアドバイスもあり、アートイベントの開催を企画。「西宮船坂ビエンナーレ」に関わってきた藤井達矢氏(武庫川女子大学准教授)の協力も得て「のせでんアートライン妙見の森2013」を開催。
作品数は約20、アーティストが滞在しながら創作するアートインレジデンスも実施。高校生は、駅の広告看板スペースに作品を掲示するなどして参加。アートの設置には、吉川地区の自治会や川西市などの協力を得た。そして「のせでんアートライン妙見の森2013」が好評だったことから、隔年で継続開催することを決定。そして第2回が2015年10月10日~11月23日に開催された。「のせでんアートライン妙見の森2015」では、エリアが能勢電鉄沿線一帯に拡大され、作品数も42と2013から倍増している。
「のせでんアートライン妙見の森2015」は、沿線の自治体などで構成される実行委員会(※4)が主催団体となり、能勢電鉄株式会社が共催する形を取っている。また主要新聞6社、放送局7社などが後援団体となり、地域の神社・仏閣、自治会、まちづくり協議会、企業や社会福祉法人、NPO法人(※5)などが協力している。このように、地域の幅広い団体や人が参加・協力していることに特徴がある。
※4:学識者、兵庫県・大阪府、沿線4市町(川西、猪名川、豊能、能勢)で構成。委員長は田辺眞人氏(園田学園女子大学名誉教授)。
※5:「特定非営利活動法人市民事務局かわにし」がボランティア(アートクルー)の受付・配置などをサポート
■「のせでんアートライン妙見の森」と地域
「のせでんアートライン妙見の森」は、能勢電鉄や沿線地域にどのような効果をもたらしたのか?このことも尋ねてみた。のせでん沿線では、高齢化や空家化が進んでいる。このためにも、のせでん沿線が「将来の住み手でもある若い世代に魅力あるエリア」になることが能勢電鉄の最大の課題。「のせでんアートライン妙見の森」によって、たくさんの若い人たちがのせでん沿線へ足を運んでくださった。このことによって、のせでん沿線が“自然豊かでアートも感じられる魅力的な地域”と感じてもらえたのではないか。そして、大阪府と兵庫県にまたがる4つの自治体(川西、猪名川、豊能、能勢)やそこに住む人々がアートによって一つのラインでつながった。こんなことはこれまでなかったこと。鉄道事業者としてのCSR(社会貢献)も十分果たせたと感じている。ただ開催に必要な資金をどう集めるかが課題です。そんな話しが笑顔とともに帰ってきた。
「のせでんアートライン妙見の森」は、「人と人、地域と人、地域と地域をつなぐソーシャルアートの芸術祭」とパンフレットに紹介されている。お二人のお話を伺いながら、このことの意味が分かってきた。能勢電鉄と沿線の自治体、市民、企業などによって開催された「のせでんアートライン妙見の森2015」。次回は2017年秋に開催が予定されている。「のせでんアートライン妙見の森2017」に向けて、沿線のより多くの人々・団体が企画・準備に参加されることを期待するとともに、元気であるならもう一度訪れてみたい。