【北摂パブリック紀行 Vol.7】 学び舎をコミュニティの拠点に


市民や企業などがつくった“みんなが集まって楽しめる場”を訪ねるパブリック紀行。第7回は北摂を飛び出して篠山市東部、丘の上の元小学校に住民や観光客が集まってにぎやかな「里山工房くもべ」です。(シティライフ2016年5月号の掲載記事のノーカット版)

■里山工房くもべを訪ねる
大阪府能勢町北端の天王地区、ここから国道173号を緩やかに下った国道372号との交差部に宿場町で栄えた篠山市福住があります。ここを北上した細工所の交差点を左折してしばらく走ると東本荘、西本荘が現れます。このあたり一帯は昔から「雲部(くもべ)」と呼ばれ、兵庫県下第2の規模の「雲部車塚古墳」(約1500年前に築造)があるように、古くから栄えたところです。西本荘の丘の上に小さな雲部小学校があります。ここは数年前に閉校になりましたが、約2年半前に「里山工房くもべ」に生まれ変わり、大阪や神戸方面から訪れる観光客、地元住民で賑わっています。お目当てはカフェの「くもべ定食」。地元でとれた野菜や自然のだしを使った料理がおいしいと女性たちに人気なのです。

里山工房くもべを訪ねてみました。駐車場を下りると、坂の上に小さな元小学校が見えます。

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緑に囲まれた元雲部小学校

 

正面に「合同会社里山工房くもべ」の看板。これを見過ごせば小学校そのものです。

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小学校そのものの里山工房くもべ

 

左手のカフェに入りました。約10名のお客さんがお茶を飲みながら話しています。カウンターの向こうには、若い男女のスタッフがコーヒーのサービス。よく見ると、カウンターの後ろには、地区別の児童数、行事予定などが書かれた黒板・・。ここは元教員室だったのです。お客さんが座っている椅子や机が小さくてかわいいのは、子供用をそのまま使っているから。

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カフェでくつろぐ人たち

 

私も机に座って、名物の「くもべ定食」を注文しました。この日のメニューは、野菜とエビの天麩羅、里芋の煮物、大根のなます、黒豆、栗きんとん、そしてご飯、味噌汁、漬け物でした。エビ以外はすべて地元で穫れたものばかり、自然のだしを使った薄味の料理が美味です。

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心のこもったくもべ定食

■もう一度里山工房くもべを訪ねる
季節が変わった頃、もう一度里山工房くもべを訪ねました。カフェに入ると、合同会社里山工房くもべの社長で、この日はフロアサービスをしていた今井さんがこぼれるような笑顔で迎えてくださいました。

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笑顔がステキな今井さん

 

この日は窓向きの席に座りました。運ばれてきたランチは、和風ビビンバ、ミネストローネ風の野菜スープ、野菜の煮物、酢の物、豆腐でした。窓の向こうには、校歌の碑、新緑の桜、田園風景・・・。昔見たようななつかしい風景と一緒に、心のこもった料理をいただきました。

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外を眺めながらランチ

 

どんな人が料理をつくっているのかしらん?と奥の調理室を訪ねてみました。もとの給食室が調理室になり、6~7名の女性が忙しそうにされていました。ここに来られない高齢者には、弁当の配達もするとのこと。

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大忙しの調理室

 

2階に上がってみると、6つの教室は、革靴、革鞄、木工、丹波木綿などの工房&展示販売室として利用されていました。教室を借りている方々は、比較的若い人が多いようです。篠山の中心から車で約20分と少し距離がありますが、城下町を散策したあと立ち寄る人も多いとか。日本の故郷の原風景といわれる丹波篠山で創作することが喜びであり、また丹波篠山でつくられたものを手に入れたいと買って行かれる人もいるとか。篠山のブランド力を感じました。

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革鞄の工房&展示販売室

 

カフェの隣の直売所にも寄ってみました。「くもべまちづくり協議会」の会長で、この日はレジ係をしていた梶谷さんが温かく迎えてくださいました。棚には、とれたての野菜、米、花、パンなどが並べられていました。細長い小さな部屋。ここは元校長室だったとのこと。

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元校長室の農産物直売所

 

■里山工房くもべはどのようにできた?
雲部小学校は、もともと1学年1教室の小さな小学校でした。児童数の減少に伴い、南にあった日置(ひおき)小学校、後川(しつかわ)小学校とともに城東小学校として統合されることになり、雲部小学校は平成22年3月に閉校されました。

閉校が打ち出されたとき、梶谷さんたちはショックでしたが、もう一度地域を元気にしようと、小学校の跡地の利用を中心にした地区の再生計画「1500年の未来に向けた、ほんものの里村づくり」を作成。その前後に紆余曲折がありましたが、県や市、住民の協力もあり、住民や観光客が集まれるカフェ、直売所、ギャラリーなどからスタートすることにしました。そして、平成25年8月に運営会社「合同会社里山工房くもべ」を立ち上げました。協議会の「地域おこし部会」を会社にした形なので、社長には部長の今井さんが就任し、副社長は協議会会長の梶谷さんです。

運営資金として、9集落の200人から各1万円、合計200万円の出資を募った。これには、資金を集めることに加えて、地区の住民に参加意識を持ってもらうねらいもあったようです。職員は、調理室、カフェなどの約20人。職員は有給ですが、一般的な水準と比較すると低額。しかし、みなさん楽しみながら仕事をされているようです。4人の執行役員は無報酬です。

カフェ等のオープンに先立って教室やトイレ、調理室などの整備を行いましたが、机、椅子、棚などは小学校当時のものをそのまま使ったら、「なつかしい」「昔の小学校を思い出す」と、逆に来訪者に喜ばれたようです。

オープン当初、メディアに盛んに取り上げられたこともあり、広島や名古屋からはるばる訪ねて来た人もいた。しかし冬場には利用者も少なくなるなど、カフェの経営は順風満帆とはいえないようです。しかし、「料理の質を落とさないように気をつけながら、5年は頑張りたい」と梶田さんは話します。

カフェなどの他にも、事業を拡大しているようです。別の日に訪れたときには、尼崎市園田地区の人々が黒豆の植え付けをしていました。枝豆に成長したときにまた来て、収穫するようです。また、神戸の元町で開催されている農産物の直売所「元町マルシェ」にも定期的に野菜を出荷しているとか。今後は、黒豆味噌など地元の農産物を使った特産品づくり、病院やスーパーへの高齢者の送迎サービスなども手がけたいとのこと。

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黒豆の植え付けをする都市住民と今井さん

 

■雲部は元気になった?
「雲部は元気になりました?」と梶谷さんに尋ねました。「そうやなー、大阪・神戸からたくさんの人に来ていただいて、喜んでもらっている。高齢化が進み、店がなくなったことで、雲部の人々のコミュニケーションが少なくなっていたけど、小学校に集まっておしゃべりする機会がふえた。高齢者から若い人まで、少しやけど働く場も生まれた。カフェで使ったり、マルシェに持っていく野菜が足らないので呼びかけたら、若手の農業者7人が協力を申し出て頑張ってくれている。老人クラブの人たちが『わしらにできることはないか?』と、草刈りや木の剪定をしてくれる。PTAのお父さんお母さんがひまわりの苗を植えてくれた。農産物の販売や農業体験などを通じた都市との交流も始まった。こんなことを考えると、雲部が少し元気になったかな?」と笑顔で応えてくださった。

そして、「雲部小学校を“廃校”ではなく“閉校”と言っているのは、いつか雲部小学校として再開できることを期待しているから」「地域づくりでは、意見を言うだけでなく『私がやります』と行動することが大切」とも・・・。

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梶谷さん、今井さんなど中心メンバー 出典:「ひょうごの元気ムラ」

 

近年、地方や田舎の価値が見直されてUターン、Iターンする人が増えています。しかし、多くの地方や田舎は疲弊しています。その中にあって、篠山市雲部地区では、かつての学び舎をみんなが集まれるコミュニティの拠点(住民と行政がつくった新しいパブリックな空間)に蘇らせることによって、未来に向けた一歩を踏み始めたようです。

※里山工房くもべ:篠山市西本荘西ノ山2-1

営業は金曜~月曜の10~16時(カフェは14時まで) 電話:079-556-2570


この記事を書いた人:

山本 茂
北摂を中心に地域計画・まちづくりの仕事を長く続けました。現在は、千里ニュータウンと周辺をもっと魅力的にしたいと、仲間といろいろな活動をしています。まちづくりの第一歩は、市民や企業が地域の魅力を再発見しながら、できることから。「北摂パブリック紀行」は、市民や企業がつくった”みんなが集まれる素敵な場所“を発掘し、人とともに紹介しようとスタートしました。趣味は山と料理。オレンジ色のハスラーに乗って全国の山へ出かけます。
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