
市民や企業がつくった“みんなが楽しめる開かれた場”を訪ねるパブリック紀行。第8回は、千里ニュータウンの歩行者道に市民が少しずつ苗を植え・育てた、あじさい(紫陽花)がいっぱいの通りです。(シティライフ2016年6月号の掲載記事のノーカット版)
千里ニュータウンの千里中央・セルシーから千里阪急ホテルの横を通り、東に延びる歩行者道は「こぼれび通り」と呼ばれています。このこぼれび通りは、毎年6月になるとあじさいの花が咲き乱れます。しかし、あじさいが見られるようになったのはこの約10年間のできごと。あじさいの苗を植え、育ててきた人たちの歴史があるのです。
あじさいが咲き乱れるこぼれび通り
■あじさい通りはどのように生まれた?
あじさいが咲き乱れる通りは、どのようにして生まれたのか?こぼれび通りに「あじさいを咲かせる会」の代表で近隣に住む福岡鈴子さんに聞きました。
千里ニュータウンは緑の多い町で知られますが、街路樹には成長が早いポプラやセイタカアワダチソウなどが植えられました。これらは風に弱く、開発から約30年が経過した頃から台風のたびに次から次に倒れ、セイタカアワダチソウが繁る荒地になっていました。
これを見ていた福岡さんは、荒れた”こぼれび通り”を「花が咲く通りにできない?」と考え、市に相談すると、「地域で管理するならOK」との返事をもらいました。では・・と花を植えることにしましたが、何の花を植えたらいいか?いろいろ考えた末、昔から好きだったうえに、育てるのが簡単そうなあじさいに決定。2006年、郷里の丹波から持って帰ったあじさいを挿し木、そして移植。2007年、荒れ地だったところに、最初の小さな花が一つ、二つと咲きました。

1年目に咲いたあじさい(2007年7月)
2年目に咲いたあじさい(2008年6月)
その後、地域の知り合いやガールスカウトも協力したり、大阪大学であじさいを育てていた女性が指導してくださるようにもなりました。

参加者に説明する福岡鈴子さん
数年後から6月の第3日曜日に「あじさいを楽しむ会」を開催するようになると、苗を育て・植え・水やりをする「里親」が徐々に増え、今では60名以上になったとか。しかし、実際何人かはわからないとのこと。このような活動が実り、毎年6月になると、こぼれび通りはあじさいが咲く通りになり、道行く人たちを楽しませてくれます。
あじさいを楽しむ会(2010年6月)
■あじさいを咲かせる会の活動
前述のように、6月の第3日曜日に「あじさいを楽しむ会」を開催。このときに、「里親」を募集します。花が終わると、7月初旬に剪定作業。剪定した若い枝で挿し木をします。11月に育った苗を植え付け、同時に腐葉土をつくります。

挿し木
腐葉土づくり
これらは会の複数のメンバーで行いますが、「里親」の活動は、個人が好きな時間に・好きなように行うのが原則とのこと。体力のない高齢者や地域活動が苦手な人でも、あいた時間にやってきて、草を取ったり、水やりをするそうです。
母の日にプレゼントされたあじさいを育てられないからと持って来る人もあり、今では“これもあじさい?”と思うような珍しいあじさいがいっぱいです。
白いあじさい・アナベル
花が美しいガクアジサイ
この写真は、2011年6月に撮影したものです。一人の男性が腰を落として、草を抜いたり、土を耕していました。
一人であじさいの世話をする男性
福岡さんに尋ねると、この男性は2~3年前に他界されたとか。里親だったご主人が他界されたあと、残された奧さんがそのあじさいにやってきてご主人を懐かしむ場面もあるとか。こぼれび通りは、そんな人たちの歴史を刻んでいるのです。そんな里親の世話によって10年間育ってきたあじさいたち、今年はどんな見事な花を咲かせてくれるのでしょう。
今年咲いたあじさい(2016年5月26日)