【北摂パブリック紀行 Vol.12】納屋のようにヒト・コトいっぱいの工房


市民や企業がつくった“みんなが集まって気持ちよく過ごせる場所”を訪ねる北摂パブリック紀行。今回は北摂を飛び出し姫路へ・・。播磨を愛する人が集まって交流し、人のつながりと活動が次々に生まれている「納屋工房」です。

 

■姫路へ、そして納屋工房へ

8月末、新大阪から新快速に乗って姫路へ出かけました。姫路駅を出ると、大手前通りの正面に国宝そして世界遺産の姫路城がドーンと現れます。平成の大修理を終え、ますます輝いて見えます。

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大手前通りの正面に姫路城

 

姫路駅北の駅前広場は、姫路城の改修にあわせるように、これまでの車優先の駅前広場から、人優先の「城を望み、時を感じ人が交流するおもてなし広場」へと再整備された。広い歩行者空間、半地下の水が流れる広場など、とても居心地がいい空間です。

http://www.city.himeji.lg.jp/s70/2212598/_25050/_25051.html

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水が流れるキャッスルガーデン

 

大手前通りの広い歩道を姫路城に向かってまっすぐ歩きます。途中、海外からの旅行者が目立ちます。やはり世界遺産の街ですね。駅から約10分歩くと、姫路城が目の前に迫ってきます。そのあたりにある古めかしいビル「大手前第一ビル」の4階にある「納屋工房(なやこうぼう)」(主宰:長谷川香里さん)が本日の訪問先です。

http://nayakobo.com/

 

階段をのぼり、ガラス張りの明るいスペースに入れてもらいました。すると、なんと正面にこれまた姫路城がドーンと姿を見せているのです。姫路城を見るには最高の場所です。

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納屋工房の窓から姫路城が見える

 

入口付近には、姫路、神戸、大阪などの情報誌、パブリックスペース、お店などのパンフレット、イベントのフライヤー、販売スペースには、絵はがき、地場産のマッチや紋かるたなど「播磨のいいもん」が並べられ、ちょっとした情報センターです。

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ガラス窓に沿って並べられたパンフレット類

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播磨のいいもんコーナー

 

■ひめじまちづくり喫茶

さて、この日のお目当ては、播磨以外の地域で活躍している人をゲストに招き、その人の生き方とともに活動について話してもらう「ひめじまちづくり喫茶(ひめまち喫茶)」。ゲストは、岐阜県飛騨市の旧神岡鉄道の廃線をレールマウンテンバイクで走る「Gattan Go!!」を運営するNPO法人神岡・町づくりネットワーク事務局の田口由加子さんでした。

http://rail-mtb.com/

夕方から、仕事を早めに終えた姫路と周辺のまち(明石、加古川、加西など)の人々が三々五々集まってきます。午後6時半、約20人が集まったところで田口由加子さんの軽妙な話が続きました。それは、父親の死を契機に東京からUターンしたとき、地域住民の“心の財産”だった旧神岡鉄道の廃線を活用して神岡のまちを元気にしたいという事業にスタッフとして参加。サイパンの廃線を自転車で走ったのが楽しかったというボスの声で「レールマウンテンバイク(RMB)」の事業化がスタート。リタイアした元気なシニアたちと一緒に、二人で漕ぐ一号車を完成させた。インターネットで紹介されたことで予想外の反響があり、利用者が増えた。その後、ファミリーで、ペットと一緒に、多人数で・・などの利用者のニーズに合わせて、多種多様なRMBを開発。約10年が経過して、今では年間利用者4万人を超える、高山、奥飛騨温泉郷などと並ぶ観光の拠点になっている。今後は、現在3kmの利用区間を全線30kmに拡大したいというものでした。

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田口由加子さんがゲストの「ひめまち喫茶」

 

そのあと、意見交換、そしてテーブルを囲んでの懇親会です。姫路に転勤中に姫路のまちづくりに取り憑かれ、現在は姫路の土木系コンサルタント会社の代表をしながら「ひめじまちづくり喫茶」を長谷川さんたちと運営している篠原祥さん。

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「ひめまち喫茶」を司会進行する篠原祥さん

 

同じく土木系技術者でまちづくりに熱心なKさんやHさん、「世界文化遺産 姫路城 現代美術ビエンナーレ」を主導しているIさん、小学校のシチズンシップ教育に熱心なM先生、工業高等専門学校で都市計画・まちづくりが専門のS先生、近代産業遺産の保存活用を進めているM夫妻、観光ボランティアガイドの会のFさん、信用金庫のMさん・Hさん、ふるさと加西応援隊のIさん、加西の酒造会社のIさん、郵便局長さん、コープの人などなど、実に多彩なメンバーがそれぞれの活動話などを出し合いながら、遅くまで交流しました。

 

■納屋工房の多彩な使われ方とまちへの波及

今から8年前、グラフィックデザインやWebデザインが本職の長谷川さんは、姫路市内に事務所を構えたいと、あちこち探していたとき、姫路城の見える広い空室を見て一目惚れ。私にはちょっと贅沢と思ったけど、ちょうど募集中だった姫路市のベンチャービジネス支援事業に応募。そして見事採択されて転居しました。本業のかたわら、「空いているときに使って」と始めたコミュニティスペースが次第に知られるようになり、口コミやコミュニティ誌で紹介されたこともあり、利用がさらに広がったそうです。

それらは、講座、講演、会議だけでなく、音楽ライブ、演劇、落語、料理・ヨガ教室、写真・絵画展、ラジオ公開放送、映画の撮影などなど。「当初は想像さえできなかったいろいろな利用がされてビックリしました」と長谷川さんが言うように、たしかに映画の撮影まで行われるのですから驚きです。

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子どもといっしょにアートイベント(写真提供:長谷川香里さん)

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ボディケア(写真提供:長谷川香里さん)

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和菓子づくりのワークショップ(写真提供:長谷川香里さん)

 

長谷川さんは、コミュニティスペースの利用に関する「営業」はまったく行っていません。それなのに、納屋工房のコミュニティスペースが口コミで伝わり、考えもしなかったような利用が行われ、集まった人たちがつながり、新しい活動が生まれていったそうです。

例として、納屋工房のコミュニティスペースで演劇を行ったグループが「演劇の会場は必ずしもホールでなくてもよい」ことに気づき、それ以来まちなかの商店街や店舗で演劇を行っているそうです。こんな話は、納屋工房の周辺にはいっぱいあるようです。

また、「まちライブラリー(※)」の提唱者である磯井純充(いそいよしみつ)さんを「ひめまち喫茶」のゲストに呼んだところ、参加していた先生がそれまでの学級文庫をまちライブラリー風に変えたいと、早速実行したそうです。

※メッセージをカードに書いて本を持ちよってまちなかに図書館をつくり、借りて読んだ人が感想などをカードに書きたし、この繰り返しによって人と人がつながっていくことをねらいとしている活動。“「本」を通して「人」と出会うまちの図書館”と呼ばれる。

 

■納屋工房は播磨の“まちづくり仲介所”?

そんな納屋工房を主宰する長谷川さんはどんな人なのと、「子どもの頃からどんな人でした?」と直球を投げてみた。すると「好奇心は人一倍強かったですね」と、笑顔とともに返ってきた。きっと、人や社会への好奇心と、笑顔に裏づけられたコミュニケーション能力が“みんなが集まる場”をつくったんだ。

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笑顔がステキな長谷川香里さん

 

ついでに、「ひめまち喫茶」に集まった人たちに、納屋工房や長谷川さんについて尋ねてみました。すると、「こんな場所が姫路になかったこともあり、いろいろな人が集まりますよ」「播磨で何かしたい人が必ず通る場所です」「用事もないのに時々来て、長谷川さんと話して帰ります」と返ってきた。

 

むかし、田舎のどの村にも、お見合い写真を持って結婚適齢期の男女がいる家を訪ねてカップルを生み出す錬金術師のような“おせっかいおばさん”がいた。播磨のまちをもっと元気にしたい、播磨で何かを始めたい人が集まって交流する中から、新しいグループや活動が生まれていく。そんな納屋工房は、もしかして“まちづくりの仲介所”かも? そして、主宰する長谷川さんは、“まちづくりのおせっかいおばさん”? いやいや、笑顔がステキな長谷川さんは“おせっかい姉さん”だが・・・。そんなことを思いながら、納屋工房をあとにしました。


この記事を書いた人:

山本 茂
北摂を中心に地域計画・まちづくりの仕事を長く続けました。現在は、千里ニュータウンと周辺をもっと魅力的にしたいと、仲間といろいろな活動をしています。まちづくりの第一歩は、市民や企業が地域の魅力を再発見しながら、できることから。「北摂パブリック紀行」は、市民や企業がつくった”みんなが集まれる素敵な場所“を発掘し、人とともに紹介しようとスタートしました。趣味は山と料理。オレンジ色のハスラーに乗って全国の山へ出かけます。
http://news.archive.citylife-new.com/news/44371.html