【北摂パブリック紀行 Vol.14】いろいろな人が集まる地域密着の老人ホーム


市民や企業がつくった“みんなが集まって気持ちよく過ごせる場所”を訪ねる北摂パブリック紀行。今回は北摂を飛び出して泉北ニュータウンへ。地域との多彩な交流プログラムが展開されている、地域のコミュニティセンターのような「グランドオーク百寿」です。

■コミュニティセンターのような特養

泉北ニュータウンに、地域のいろいろな人が集まるトクヨウがあると聞いた。トクヨウって特養(特別養護老人ホーム)?と聞き返すと、そうだという。特養というと、寝たきりに近い高齢者等が入所する、どちらかというと閉鎖的でやや暗いイメージが強かった。そんな施設があるの?とばかりに、一度訪ねてみることにしました。

まだ暑さが残る9月の中旬、近畿自動車道を南下、泉北ニュータウン茶山台の近隣センターに到着。4階建ての瀟洒な建物が今日訪ねる「グランドオーク百寿」だとすぐ分かりました。

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瀟洒な外観のグランドオーク百寿

 

玄関を入るとホテルのような受付、右手に広くて明るいカフェ、手前にマーケット。ここが特養?と一瞬目を疑います。

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ホテルのフロントのような受付

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地域に開放された明るいカフェ

 

■地域密着型の特養

あらかじめ約束していた大辻さんにカフェでお会いしました。いただいた名刺には「地域交流課リーダー」の肩書き。「こんな課があるんですね」「そうなんですよ、それだけ地域との関係を大切にしているということです」。そんな会話から、グランドオーク百寿についていろいろお聞きしました。

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地域交流担当の大辻さん

 

特別養護老人ホーム「グランドオーク百寿」を運営する「社会福祉法人よしみ会」は創設46年。大阪府で最初の「特養と保育園が一体になった施設」を茶山台で21年間運営してきた。その施設に隣接するスーパーマーケットが廃止されることになった。その跡地に、これまでの実績を活かして「グランドオーク百寿」を建設し、昨年の11月にオープン。もちろん施設の整備・運営は、堺市による公募と審査、採択を経てのことです。

「グランドオーク百寿」は、「地域密着」を特徴にしている。その地域密着の条件とは、①入居者が堺市住民であること、②ユニット型(少人数の入居者の単位で構成)であること、③小規模であること。具体には、10人のユニット×4で構成され、室数は29床+ショートステイ10床。

お昼になったのでカフェで食事をいただきました。レストランのようにいろいろあるメニューの中から、人気の日替わりランチをいただきました。この日は「ナスとミンチのはさみ揚げ」。アツアツの料理が美味しいので大辻さんに尋ねると、一流のシェフによる料理とのこと。お昼前から、若いママたち、年配の夫婦などが次々に訪れる理由が分かりました。夕方になると、カフェはこども園のお迎えに来るママたちでまたにぎわうそうです。

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バラエティ豊かなメニュー

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この日のランチ

 

マーケットを覗いてみました。スタッフと思われるニコニコ顔の年配の女性に話しかけると、なんとボランティアの方でした。マーケットに買い物に来るようになったシニア世代の中から「ここでお手伝いしたい」と申し出る人が現れるようになった。登録者は現在25名。交替でレジや商品の整理などをされているそうです。「みなさん、自分ごとのように動いて下さって、とてもありがたいです」とのこと。ボランティアのみなさんの生きがいの場にもなっているようです。そして、施設と地域とを結ぶ“パイプ役”も果たしているとか。夕方には、マーケットは駄菓子目当ての子どもたちでにぎわうそうです。

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駄菓子、食料品などが並ぶマーケット

 

入口付近にパソコンが置いてあるのは、「ネットスーパー」用とのこと。イトーヨーカドーとタイアップしており、登録した地域のメンバーが「グランドオーク百寿」や自宅からネットで注文すれば、どんなに少額でも配達料100円で配達してもらえるとか。高齢者にはパソコンのサポートが必要かな?と思いつつ、このようなサービスを先取りしていることにも感心しました。

■地域との多彩な交流プログラム

“地域密着”はここまでと思ったら、もっとありました。カフェなどを利用して、地域の人々が交流できる各種のイベントを開催しているのです。

企業とのタイアップによる、本格的プロの指導が受けられる交流イベントは、「てづくりうどん教室(丸亀製麺)」、「ポッキーでデコレーション(グリコ)」、「美味しいコーヒーの入れ方(スターバックス)」、「ブルーベリーの植え付けと収獲、ジャムづくり(わかさ生活)」などです。

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てづくりうどん教室

 

イベントの中には、あの「堂島ロール」の出張販売、園児による秋祭り神輿イベントなどもありました。

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交流イベントの予定

 

夏休みには、子どもや母親のリクエストで、施設を見学したり、おじいちゃん・おばあちゃんと昔の遊びを一緒に楽しむ「親子夏休み体験学習 グランドオーク百寿を知ろう」を開催。そのときの様子が「高齢者の気持ちになり、おじいちゃんおばあちゃんの昔の遊びを学び、少しでも勉強に、そして夏休みの自由研究みたいになっていれば嬉しいです。事故等もなく、大人も子どもも大はしゃぎで楽しい1日となりました。参加いただいた皆様ありがとうございました」とフェイスブックで紹介されています。

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グランドオーク百寿を知ろう(フェイスブックより)

 

地域の小学生がカフェに遊びに来た際に、「お仕事手伝いたい」と言った言葉がきっかけで、カフェのお手伝いや施設のお掃除などを定期的にやってもらう「キッズサポーター」を受け入れたそうです。後日、カフェに遊びにきていた入居者と再会した小学生がみずから挨拶に訪れ、車椅子を率先して押してくれたことがフェイスブックで紹介されています。そのときのことを大辻さんは、「インターンシップが子ども達の小さなキャリア形成になればと思っていましたが、逆に子ども達が『地域』を形成してくれたように感じます。」と振り返っています。

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キッズサポーター(フェイスブックより)

 

また、カフェを会場に、地元の中学生のシンガーソングライターのライブ演奏が行われ、入居者、友達、家族などで“満員御礼”になったようです。そのときの感想が「色んな世代の方が1つの場所に集まり、一緒に盛り上がり、感動する。密着と活性が垣間見えた瞬間でもありました。こういった瞬間を、これからも継続して皆さんと生んでいきたいと思います。」と紹介されています。

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中学生のライブ演奏会(フェイスブックより)

 

■これからの高齢者施設のモデル?

特別養護老人ホームは、自立した生活が難しい高齢者が生活支援サービスを受けながら暮らす施設。私の中では、どちらかというと暗いイメージ。だから、都市の郊外や農村部にひっそりと建てられることが多かったと思います。しかし、どんなに身体が不自由になったり、どんなに惚けても、本当は“地域の一員”として、家族や知人の近くで、地域と交流しながら暮らしたいはず。このような考えの中で、近年、高齢者施設は市街地の中に建設され、地域になじむ形で運営されるものが増えてきました。

このような高齢者福祉を「地域融和」とするなら、「グランドオーク百寿」はこれをさらに進め、高齢者施設が地域に貢献するとともに、地域によって支えられ、地域とともに喜びを分かち合う「地域共生」をめざしているのかもしれません。このような施設運営の考えが「施設が地域に溶け込み、その一員としての役割を果たします。地域の力に働きかけ、地域の資源を活用することで、地域の皆さんと一緒に学び、成長することを大切にします。」と「グランドオーク百寿」のホームページに紹介されています。

「グランドオーク百寿」を拠点とする地域の多彩な交流活動によって、茶山台校区や泉北ニュータウンが今後どのように変わっていくのか、楽しみです。そして、これからの高齢者福祉のモデルとも言える「グランドオーク百寿」のような高齢者施設が全国に拡散することを期待したいと思います。

※「グランドオーク百寿」のフェイスブック

https://www.facebook.com/grandoak100/


この記事を書いた人:

山本 茂
北摂を中心に地域計画・まちづくりの仕事を長く続けました。現在は、千里ニュータウンと周辺をもっと魅力的にしたいと、仲間といろいろな活動をしています。まちづくりの第一歩は、市民や企業が地域の魅力を再発見しながら、できることから。「北摂パブリック紀行」は、市民や企業がつくった”みんなが集まれる素敵な場所“を発掘し、人とともに紹介しようとスタートしました。趣味は山と料理。オレンジ色のハスラーに乗って全国の山へ出かけます。
http://news.archive.citylife-new.com/news/46842.html