
市民がつくった“みんなが集まれるステキな場所”を訪ねる北摂パブリック紀行。今月は、ニュータウンの住民が小学校の畑で野菜づくりを通じて交流している「畑のある交流サロン」です。
千里ニュータウンの北丘小学校(豊中市)で住民が野菜をつくりながら交流していると聞きました。学校菜園での子どもたちの野菜づくりを住民がサポートしている例はありますが、住民が畑を利用して野菜づくりをしているのはあまり知りません。どんなんやろ?と出かけました。
ここ新千里北町は、地域の課題解決と望ましい地域づくりに向けて、地域の様々な団体が集まって話し合いや取り組みを行う「地域自治協議会」を発足させ、ユニークな活動を進めていると聞いていました。そのことにも関心があったのです。
11月中旬の日曜日、自転車に乗って北丘小学校へ。校門を入ってすぐの木立に囲まれた細長い畑。子どもを含む約10人が畑仕事をしています。あらかじめアポを取っていた「畑のある交流サロン」のリーダー、浅野博光さんが気安く声をかけて迎えて下さいました。「木に囲まれて、軽井沢みたいでしょ」と浅野さん。軽井沢に行ったことがないけど、さわやかで気持ちのいい場所です。
木立に囲まれた細長い畑
この日の作業はタマネギの苗の植え付け。野菜づくりに詳しそうな年配男性の指導を受けながら、慣れない手つきで植えていきます。「あっ、曲がってる」「もっと間隔をあけて・・」「はーい」となんだか楽しそうです。作業は昼前に終わり、参加メンバーはこの日間引いたレタス、水菜などの野菜をもって帰って行きました。

まず畑を耕して・・
みんなでタマネギ苗の植え付け
小学校の空き教室を地域の交流の場に開放した「コミュニティールーム」。ここで、作業を終えてお疲れの浅野さんから話を伺いました。北丘小学校のある新千里北町の高齢化率は35%(平成28年10月)と高い。小学校の児童は少なく、教室も畑も空いている。そんなまちを元気にしようと、豊中市コミュニティ政策課の指導のもと、地域の住民・団体(自治会、福祉、防犯、防災、PTA、子ども会、NPOなど)で校区の活性化と自治に取り組む「新千里北町地域自治協議会」を2014年4月に設立。
近年、集合住宅の建て替えなどで幼児をもつ家庭が多くなってきたことから、環境や防災などとともに「子育てサークル部会」を設置しました。子育て中のママが子どもを遊ばせ、お茶を飲みながらおしゃべりできる「カフェ」をめざしたけど、場所や人の確保が難しくてなかなか実現できない。そんなとき、学校と地域の連携に熱心な鈴木暁子校長から「畑を使って交流しては?」と提案がありました。単なる野菜づくりではなく、野菜づくりを通じた交流の場がねらいだから「畑のある交流サロン」と名づけたそうです。

子育てサークル部会長の浅野さん
メンバーは約25人。作業日は、日曜・水曜の午前中。出られる人が出て、畑作業を楽しむ。遅く来たり、早く帰ることもOK。雨が降ったらやらないなど、かなりアバウトでルーズです。
この日参加した10人の中には子育て中のママと子どももいましたが、半数以上はシニア。世代を超えた交流にいいかもです。参加メンバーからは、「家の近くで好きな野菜づくりができる」「畑仕事をしながら、みんなと仲良くなれる」と好評のようです。

夏のジャガイモの収穫(新千里北町地域自治協議会提供)
「サロン」がきっかけとなり、花や緑に詳しい住民が指導する「寄せ植え講座」も実施。学校や公園に落ちているどんぐりを拾ってきて、名前を当てる「こどもどんぐり博士検定」なども行われ、子どもたちに好評だったようです。

春の寄せ植え講座(新千里北町地域自治協議会提供)

こどもどんぐり博士検定(新千里北町地域自治協議会提供)
新千里北町は、平成27年(2015年)にまちびらき50周年を迎えました。これを記念して、2016年3月には、道路に面した北丘小学校のプールの壁面に絵を描く「新千里北町50周年記念事業“北町みんなでペイント祭り”」が盛大に実施されました。これは、「新千里北町地域自治協議会」が事業責任者となり、北丘小学校、北丘小学校同窓会、NPOなどの諸団体が集まった実行委員会の事業として実施されました。

ペイントを終えて記念撮影(新千里北町地域自治協議会提供)
地域の大人たちは、木の剪定や足場づくり、物づくりや物の調達、ルールづくりなどで頑張りました。子どもたちも「子ども実行委員会」を立ち上げて企画段階から加わり、準備やリハーサルを重ねながらペイントの本番に臨み、その課程で大きく成長したとのことです。
またイベントの全体をコーディネートした「NPO法人ソーシャルギルド」、洗浄・下塗り・本番をサポートした塗装のプロ集団「塗魂ペインターズ」、ペイントデザインを総指揮した「A-yan!!関西をアートで盛り上げるNPO」、ペンキを提供した「関西ペイント」「サンコーペイント」、「千里ニュータウン研究・情報センター」などの幅広い団体の協力、同窓会や住民等からの寄付などもあって初めて実現したようです。「畑のある交流サロン」のメンバーは、子どもたちと一緒に温かいスープをつくり、ボランティア参加者に提供しました。

壁面に描かれた子どもたちの絵
「計画されたイベントに参加するのではなく、子どもから大人まで、地域のみんなで計画し、実施するイベントにしたかったのです。」「終わってみて、地域のみんなでやり遂げたという達成感がありました。」と浅野さん。
浅野さんの話をほぼ聞き終えた頃、奥様が入ってこられ、お茶を出してくださいました。そして「少しですが食べてください」と渡された野菜をありがたくいただき、北丘小学校をあとにしました。
我が国では、急速な高齢化などを背景に、地域のコミュニティを支えてきた「自治会」や「老人会」が弱体化しているところが少なくありません。豊中市では、小学校を拠点とする「公民分館」、「地域福祉委員会」などが地域を支えてきましたが、ここにも人材の高齢化傾向は見られます。このような中で、地域の様々な団体が横につながり、話し合いながら、地域の課題解決や活力ある地域づくりをめざして協働する場として、「地域自治協議会」が設立されてきました(7校区で設立済み)。
「地域自治協議会」を設立すれば地域が元気になるとは限りません。全国の他地域で聞かれることですが、「地域が結構うまくいっているのに、また新しい組織をつくるんか」「自治会長や区長を無視するのか」など、「地域自治協議会」がどういうものかが理解しにくいことから、設立に向けた合意を形成するまでに1~2年を要するようです。設立されても、地域自治協議会がうまく機能するとも限りません。そのような中で、「新千里北町地域自治協議会」では、地域自治の趣旨にかなった活動が始まっているように感じられます。それは何によるのだろう?と考え、次のような3つが浮かびました。
≪いろいろな人・団体が参加できるプラットホーム≫
第1に、地域にはいろいろな思いやニーズ、アイデアをもった人がいるけど、それを出したり活かす場が少なかった。地域自治協議会ができたことによって、従来からの自治会、福祉委員会、公民分館などに加え、小学校やPTA、子ども会、子育てグループ、おやじの会など、比較的若い人で構成される団体も参加できるようになった。このことによって、新しい考えやアイデアが出され、参加メンバーも若返り、結果として人々のコミュニケーションや交流が活発になったのではないでしょうか。
≪ハードルの低い、楽しそうな企画≫
第2に、学校の「畑」や「プール」など、住民に身近な“眠っていた資源”を活かした、子どもから高齢者までが参加できる“アバウトでルーズな交流の場”を企画した。これによって、地域活動の中ではこれまで概して尊重されることが少なかった子どもやママたちが主人公になって活動できる場が生まれ、これにパパやじーじ・ばーばも参加するようになったのではないでしょうか。
≪裏方を支える人・団体の協働≫
第3に、アバウトでルーズな取り組みに見えながら、実は裏でいろいろな人や団体による綿密な話し合いや計画があって初めて実現できたのでしょう。豊中市では、小学校の空き教室を利用したコミュニティルームを拠点に、小学校との連携のもと、公民分館活動が活発に行われてきました。この地域と学校の連携の歴史が「畑のある交流サロン」「北町みんなでペイント祭り」に活かされているようにも思えます。浅野さんのような柔軟な発想ができるキーマンがいたことはもちろんです。
地域の住民・団体が緩やかにつながり、交流しながら、地域が元気になっている新千里北町。これからの動きにますます注目したいと思います。