加古川市を舞台に描く、 高校生たちのおいしい青春ドラマ 「36.8℃(サンジュウロクドハチブ)」
監督・脚本 安田真奈さんロングインタビュー


9/22(土)~10/19(金)シネ・ヌーヴォ(大阪市西区九条)
10/13(土)~26日(金)元町映画館(神戸市中央区)で公開


『幸福(しあわせ)のスイッチ』で娘と父親の関係を繊細に描いた安田真奈監督。
子育てを経て、11年ぶりにメガホンをとった待望の新作『36.8℃』が
この秋、大阪と神戸で公開される。
北摂住まいの安田さんとシティライフとは20年来の縁があり、
今回、単独インタビューで、本作の魅力、映画の魅力、
加古川の街の魅力を語っていただいた。

小さくて美味しくて可愛らしい映画

————11年ぶりの新作ですが、撮ることになったきっかけは?
 この映画は、『ぼくらのレシピ図鑑』という、地域の食材をからめた青春物語のシリーズ第一弾です。第一弾の加古川編を、オリジナル脚本で監督しませんか?と言われたのが2017年3月。撮影がその年の8月だったので、そこから大急ぎで加古川市役所の方々に、各所を案内していただいたり、街のイメージ、地域の食をお聞きしたりしました。
 加古川は都会と田舎、どちらのよいところも持っている街。しかし魅力を尋ねても「神戸ほど観光資源がない、姫路のように世界遺産がない」とみなさん控えめなんです。でも、市外からやってきた私から見れば、暮らしやすく、穏やかな街で、足りないものは何もない。しかも瀬戸内気候のように、カラッと明るい市民性。そこでいかにも地域PRとならないように『ごく自然体の青春物語に、加古川の良い風景や食材が織り込まれている』という作品を目指しました。主人公・若菜の遠慮がちな性格は、加古川のみなさんの控えめな態度にヒントを得て設定したんですよ。

————高校生が主役のお話ですが、脚本を書く上で今どきの若者事情を知る必要がありますよね?(笑)
 そうなんです。子どもはいますが、小学生男子なので、あまり参考にならなくて(笑)。そこで、この映画のために結成された、加古川市の6校42人の「高校生応援隊」に、友達とどんな喧嘩する?とか、SNSどう使ってる?とかヒアリングをしました。そこで聞いた話などを取り入れて、脚本を書いています。この応援隊のメンバーには、ほかにもロケハンや小道具づくり、エキストラ出演、昨年の加古川での公開時には舞台挨拶にも立ってもらいました。撮影数カ月前から、みんな仲良くなっていたので、高校でのシーンは雰囲気が出来上がっていて、全カット2テイク以内でOKでした。
 うれしかったのは、高校生応援隊のメンバーが、ロケ地探しで地元の風景を見つめなおしたり、映画製作で地元の大人と交流したり、地元愛が相当アップしたことですね。後日談なのですが、応援隊のメンバーはこの活動をきっかけに市役所のみなさんとも仲良くなり、映画公開の後も、町のイベントなどを手伝ったり、出演したりしているようです。
 加古川市に限りませんが、大人も若者も、毎日、学校や職場と家の往復で、意外と自分の街のステキな風景や名産品に目がいかないもの。でも映画なら、なにげない街角も綺麗に切り取れたり、新たな情感を加えて映し出せたりします。加古川の花火大会も、いわゆる「ザ・名物」というPR感ではない、シットリした描き方にしてみました。外部の目、映画の目で地域をみつめれば、色んな形で街の魅力がひきだされるのでは、と思っています。

————ほかにも、市民の参加度が高い作品のようですね
 6月には演技のワークショップをしたのですが、応募多数でびっくりしました。100人応募があり、人数の都合で70人参加いただきました。みなさん芸達者で積極的でした。7月には市民オーディションを開催すると約250人にご参加いただき、主人公の弟や工場長と事務員など、色々出演いただきました。先述の高校生応援隊もそうなんですけど、遠方からスタッフ・キャストが短期間で来て、撮影して去って…というよくあるパターンではなく、ワークショップや市民参加など、本当の意味での地元の人たちと一緒になって作り上げたご当地映画になったと思います。
 おかげさまで、昨年の加古川先行公開では、単館3週間で2800人来場いただきました。また、今年7月の新宿ケイズシネマ一週間限定公開は、土日は満席、平日も右肩上がりの集客でした。たくさんの方が、「爽やかな気持ちになった」「ホロリときた」などの嬉しい感想をよせてくださいました。

————実際に映像を見て、夏の加古川の美しい風景と控えめな女子高生の心の葛藤、そしておいしそうな料理の数々、なんというか映像的にもかわいらしさにあふれた映画ですね。
 主演の堀田真由さんは、ドラマ「わろてんか」「チアダン」などで人気上昇中で、繊細なお芝居が魅力です。2人の友人を演じた岸本華和さん、西野凪沙さんもそれぞれのキャラクターを上手く捉えてくださって、本当にリアリティある高校生の物語になっています。お料理はフードコーディネーターの方に、加古川のイチジクやブドウ、米粉を使ったメニューを考えていただきました。映画のエンディングやホームページにレシピがあるので、見た後にはきっと作りたくなるはずです(笑)。

————最後に読者の皆さんへメッセージをお願いします。
 タイトルの『36.8℃』。このなんとも言えない微熱のような数字は、青春の揺らぎそのものです。激しく不幸でもなく、幸せの絶頂でもなく、毎日は、ちょっと嬉しかったり、ちょっと不安だったり、の繰り返し。そんなリアルで普遍的な青春模様を、加古川の素朴な風景や食を織り込みつつ、優しく描いてみました。
 「女子高生の物語か…私関係ないわ」と思う方も多いかもしれませんが、主人公の若菜の遠慮がちな性格って、いかにも日本人的で、年齢を越えて共感できるはずです。母と娘のやりとりや、友情シーン、恋愛シーンも、じんわりしみると思います。また穏やかな中にもピリッとしたシーンもあり、全体的にとてもリアルです。派手なシーンはない、まさに微熱な作品ですが、65分と気楽に見られる長さです。さわやかな青春物語を、ちょっとイイ景色と美味しいメニューとともに、楽しんでください。



毎日は、ちょっと嬉しかったり、ちょっと悲しかったりの繰り返し。青春は、まさに微熱…。
『36.8℃ サンジュウロクドハチブ』[2017/日本/65分/HD]
http://sanrokuhachi.jp/
監督・脚本:安田真奈
出演:堀田真由/岸本華和/西野凪沙/安藤瑠一/平井亜門/本間淳志/陣内智則/ジョーナカムラ/北原雅樹/橋詰優子/渡辺真起子/寺脇康文

製作・配給:映画24区
安田真奈監督 プロフィール
映画監督・脚本家。奈良県出身、大阪府在住。神戸大学の映画サークルで映画を撮り始め、メーカー勤務約10年の後、2006年映画「幸福(しあわせ)のスイッチ」監督・脚本で劇場デビュー。上野樹里×沢田研二の電器屋親子物語。当作品で、第16回日本映画批評家大賞特別女性監督賞・主演男優賞(沢田研二)、第2回おおさかシネマフェスティバル脚本賞・助演女優賞(本上まなみ)受賞。脚本担当作品は、NHK「ちょっとは、ダラズに。」「やさしい花」、映画「劇場版 神戸在住」「猫目小僧」、毎日放送「奇跡のホスピス」、関西テレビ「大阪環状線part2芦原橋編 ダダダゆうてドン」「大阪環状線part3寺田町編 宇宙のタコヤキ」など。


この記事を書いた人:

シティライフ編集部
北摂・阪神の地域情報紙『シティライフ』の編集部です。 市民記者の皆様と一緒に、地域密着の情報をお届けします。

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