
廃棄品を活用して新しい製品を作る「アップサイクル」がファッションやプロダクトの分野で注目を集め始めている。ゴミの減量が全国的に課題となる中で、アップサイクルは今後一つの解決法となりえるのだろうか。
【廃棄物をかっこよく便利に】
廃棄物を再資源化し、新たな製品の原料として利用することを指す「リサイクル」とは異なり、端材(不良品、不用品)の特徴を活かしてあらゆる部分を利用し、クリエイティブな工夫を凝らして元の製品よりも価値の高いものを生み出すことを「アップサイクル」という。
デザイン会社レイ・クリエーション代表の原田徹朗さんは、8年ほど前から工場の端材や不良品を活用して新たなプロダクトを生み出すアップサイクルに取り組み、その活動を民間企業や教育の現場に波及させている。
【阪大で生まれた端材ブランド「etsaw」】
大阪大学では、学生の創造力を養うことを目的に、2014年から一般教養の授業にアップサイクルを取り入れている。その講師を務め、学生にアップサイクルの手法を伝えているのが原田さんだ。授業は、学生たちが実際に工場に行き、匂いや音を体感しながら端材を得るために自ら交渉するところからスタート。持ち帰った端材をもとに、外部から招いたクリエーターとペアになって製品化のアイデアを出す。これまでに、ネジやボルトなどの端材から椅子や照明、食器など、創意工夫にあふれる製品が数多く生まれた。これらは、ゴミ箱を意味する英語「waste」を逆さまにした「etsaw(エットソー)」としてブランド化され、「不良品から富良品へ」と題された展示会などで公開・販売されてきた。
【不良品のネジで一夜限りのイベント】
2013年には、大阪のとあるネジ工場で年間100tも廃棄されていたネジを活用し、「ネジ工場-不良品から富良品へ」という展覧会を奈良県のギャラリーで開催した。床には大量のネジをばらまき、室内には工場で撮影した製造現場の映像を4台のプロジェクターで映し出し、ネジを製造する際の機械音をミックスして作り上げたBGMを響かせるという独創的なイベント。最終日には約200人がネジ空間の中でパーティーを催し、ネジとアートが一体になることで製品の価値の高さを知らしめた。「端材を使えば、プロダクトの生産だけでなくイベントもできる。どうコミュニティを形成し、事業にどう発展させるかを考えることが大切です」と原田さん。
【工場の改善活動にも】
原田さんがアップサイクルに取り組み始めたのは、コンサルティングを行なっている工場の職場改善活動の一環だった。高い品質基準を誇る日本の生産現場では、基準に満たない製品が大量に廃棄されている。不良品を再利用するより、廃棄して新しく作り直したほうが生産性は高まるからだ。しかし、そこに創意工夫はない。「端材から生まれた製品を見れば、捨てられるものに価値があることが工場の社員にも分かるはず。自分たちが素晴らしいものづくりをしているという誇りを再認識でき、それが新しい発想を生むのでは」と原田さん。機械的ではないポジティブなものづくりが、本当の意味での生産性向上、改善活動につながると話す。
原田さんの目標は、アップサイクルで作ったものを製品化すること。しかし、製造業は日々の業務に忙しく、また端材では安定的に一定の数量を生産することが難しい点が課題だ。「端材は捨てるもの、という既成概念を破って、まずはそこに価値があることを一人ひとりが認識することが大事ではないでしょうか」。